ベトナムからの笑い声 アーカイブ
Laughing Voice form Vietnam Archive
ベトナムからの笑い声 第26回公演「キャプテンジョー」Blog内容
ベトナムからの笑い声 第26回公演「キャプテンジョー」は、宇宙を漂流する宇宙船内で発見された、船長による日記(Blog)の文章で幕を上げる。誰も知らなかったその船長のBlogを読むところから始まり、次にそのBlogの続きを船員が順番に書き始める(8/13~)のだが、舞台上ではそのBlogが再現される。
やがて、「再現ドラマ」としてのBlogは船員(俳優)の報復合戦となり、メンバーの一人が失踪するにまで発展。
そして本当に船員が一人Blogの通りに失踪してしまう。
ことの重大さに気がついた船員は、Blogの内容を自重しようとするが、Blogを書く担当の意志とは別に、Blogは書き直され、次々にメンバーが失踪していく事態に。
メンバー以外にこの船に乗っている人間/もしくはそれ以外の生命体がいるのか、
それともメンバーの中に裏切り者がいるのか・・・。
最後のBlog(8月29日)の後、物語はクライマックスに。
その部分の戯曲も掲載しました。
Blogの内容とともにどうぞ。
2015年08月06日
疲労
宇宙に飛び立ってから約三週間、
船員たちの疲労はピークに達しているようだ。
先の宇宙人との二度に渡る
攻防のせいもあるのだろうか、
船員同士の口論や小競り合いも多くなってきた。
この宇宙船は今どこを彷徨っているのだろうか。
一刻も早く降り立つことのできる惑星を
探さねばなるまい。
そしてこのブログが、我々と同じように
生き延びることができた人類に届くことを切に願う。
余談であるが、また斉藤が食料の盗み食いをした。
約一年分積み込んでるとはいえ困ったものだ。
普段は大阪弁で周りを和ませる気のいい男なのだが…。
まあ一人位、こんな黄レンジャーみたいな男がいても
いいもんだが(笑)。
2015年08月07日
オーストラリア
今日は窓の外を見て驚いた。
なんとそこには、
昔、世界地図で見た大地が
宇宙に浮かんでるではないか。
コアラだ。
コアラの群れがこちらを見つめている。
ここだ、ここなら何とかなるかもしれない…、
いざ降り立とうとした時、
私の期待は見事に打ち砕かれた。
そこにはコアラを貪り食う無数の人間が、
いや鬼達が、われ先にとコアラに襲い掛かっていたのだ。
痛ましい、痛ましすぎる。
神は我々人類をどうしたいのか、
これがあなた方に背いた罰なのか!
我々宇宙船はその大地を後にした。
絶望感に浸りながら窓を見つめる私に、
森優子がそっとしなだれ、
無言で一時間程私の足にしがみついた。
…まるでコアラのように。
その横で無邪気にコアラのマーチをほおばる斉藤を、
私は咎めなかった。
2015年08月08日
北方領土
先月末からこのブログに反応してくる
ロシア人とのやり取りは一向に進まない。
船内に一人でもロシア語が読める人間がいればと、
悔やんでも悔やみきれない。
彼らもまた、我々同様、
宇宙船でこの暗闇を彷徨っているのか。
もしくはロシアという広大な土地で、
人類の再出発を果たそうとしているのか…。
北方領土、なんてちっぽけな問題だったんだろう。
歯舞、国後、択捉…。
その時である。
船員の一人、渡辺マンが叫んだ。
「キャプテン、色丹ですよ、色丹、ほら、色丹、色丹、
しこたーん! しこたーん!
しこしこしこしこしこたーん、
しこしこしこしこしこしこーっ!」
窓の外の色丹を見つめ、
泣きながら自分のあそこをむさぼる渡辺マン…。
今日ほど人間の性欲の素晴らしさを
実感した日があっただろうか。
私はにっこり微笑んで自室に戻り、
好きでもない中野をおもいっきり抱いた…。
罪な男だ。
勿論、斉藤が覗いていたことは百も承知だ。
2015年08月09日
アトム
8月9日、晴れ ←宇宙ジョーク(笑)
今日はもう一人、
我々「桜吹雪3号」の乗組員を紹介しておこう。
彼の名前はアトム。
お気づきの方はお分かりだろう
(読んでいる人がいればですが)、
そう、彼はロボットなのです。
まじめで物知りな彼だが、私ともう一人、
近藤君にしかなつかないのがたまに傷。
その近藤君ともしょっちゅう喧嘩をし、
その二人のやり取りが周りを和ませる。
いわば人間関係の潤滑油的存在でもある
(彼はロボットなんですが)。
「あっちじゃなーい、そっちじゃなーい、
あっちもこっちもブラックホール」(笑)。
今や二人のこのやり取りは、船内の流行語大賞だ。
「~ロボットだけに」。「~人間だもの」。
船員たちは彼らを称してこう呼ぶ、宇宙一の漫才師
「近藤アトム」と。
ただ二日だけ結成された「斉藤アトム」は散々であった。
なぜなら斉藤は、アトムのねじをとることと、
コードを引きちぎることしかしなかったから。
2015年08月10日
第4惑星ナバーシロンの戦い
宇宙に漂流し、三度目の宇宙人との戦いがあった。
過去二度の宇宙人とは違い、かなり好戦的な彼らは、
強引に船内に潜入し、次々と我々に襲い掛かってきた。
身の丈一メートル弱、
後頭部と唇が異常に発達し、体の大半を占める。
だが歪な体つきとは裏腹に、攻撃方法は単純なもので、
体当たりのみ。
勇敢な乗組員の勇気と過去の経験から、
難なくこの戦いに勝利することができた。
女性乗組員の森と中野もよくやってくれた。
ただ中野文の天然ボケぶりは相変わらずだ。
擬音や状況をいちいち大きな声で口にするので
うっとうしい。
「ドタッ」「バシャーン」「グワーッ」
「テクテクテクテク」「アガスコアガスコ」
「今まさにせめぎあーい」「プンプン、私怒ってますぞ」
「なんたるメルヘン」「なーんちゃって、てへ」、
等々数え上げたらきりがない。
いずれにせよ、何とか無事、
我々はこの難局を乗り切った。
ただ、その後聞かされる瓜生の自慢話には、
船員たちも困っているようだ。
聞かないと尋常じゃないくらいすねる。
まあ、何もせず戦いの後ひょっこり現れる斉藤よりましだ。
死ね。
2015年08月11日
再会
今日は朝から、森優子のことを思いながら、
わかめちゃんのスカートをはいた中野を抱いた。
最近、頭痛やめまいが激しく、
時に幻覚を見るようになってきた、
無性に昔のことを思い出し、涙が止まらない。
帰りたい、
いや厳密にはもう帰る場所がないので
あの頃に戻りたいと表現するべきか。
瓜生「キャプテン」
私「瓜生君」
瓜生「何を泣いてるんです」
私「いや、何でもない」
瓜生「皆言ってましたよ、
最近キャプテン元気がないって」
私「ああ、すまない」
瓜生「あなたがそんなことでどうするんですか、
皆あなたが好きだから、
あんたの情熱に惚れ込んだから、
斉藤さん以外こうやって
一緒にやってきたんでしょうが!
情けない顔すんなよ!」
私「瓜生君、君は親父さんとそっくりだな」
瓜生「…あの人の話はやめてくれ、
ロケット作りに気が狂い、家族を捨てたんだ。
あんなやつ親父でも何でもない」
その言葉に私は思わず瓜生を殴った…。
私「殴ったぞ、親父にも殴られたことのないお前を
殴ったぞ、哲平!」
瓜生「えっ…、あんたまさか…、
お、親父…、お父さん…、なんで、なんで」
私「無理もないか哲平、三十年振りだからな」
The sun'll come out/Tomorrow/
So ya gotta hang on/'Til tomorrow/
Come what may/Tomorrow! Tomorrow!/
I love ya Tomorrow!/You're always/
A day/A way!
2015年08月12日
七人の侍
喧嘩っ早いうんちく王、
「アトム」との名コンビで様々な難局に挑む
北京が生んだ内弁慶「近藤アトム」。
見かけは大人、頭は子供、天然ボケのエロ天使、
フリルにかちゅうしゃコスプレ命、
相談相手はぬいぐるみ、
元アイドル「アガスコ中野」。
眼鏡の奥の眼光鋭き智略家、
駄洒落と下ネタの速射砲、
戦う姿はグレコローマン、浪花節だよ「渡辺マン」。
船内に咲く一輪の花、
近藤、渡辺、瓜生を従えるその姿は、
まさしく西遊記・夏目雅子、
ただ豚への暴力は度が過ぎる、
夢は紅白かハリウッド、
サディスティックシンガー「森優子」。
仕切る姿は三級品、すねる姿は一級品、
ミスター親の七光り、
卑屈の突っ込み王「瓜生哲平」。
食う寝る遊ぶ、
ひがみやっかみいっちょ噛み、
飲む打つ買うの奇跡の三拍子を持つ男、
邪悪の三冠王、堕落のトリプルスリー、真逆の大三元、
大阪弁の黄レンジャー「斉藤勝男」。
そしてご存知、彼らをまとめる人類の希望、
桜吹雪三号の船長「キャプテンジョー」。
ん? 私がどんな男かだって。
ふん、生きてりゃ分かるさ、
お前か私がな。
アディオス。
2015年08月13日
アメリカ
今日、我々は、奇跡的にも、とある惑星、
つまり分裂した地球の一部と思われる大陸に
不時着することが出来た。
我々の目に真っ先に飛び込んできた残骸を見て、
そこはどこだかは一目瞭然、アメリカだ。
かつて世界のリーダーを気取った超大国、アメリカだ。
我々は早速船外へと飛び出し、
生き残っている人間がいないか、
あたり一面をくまなく調査した。
アメリカ人と中国人の両親を持つウンチ王・近藤は、
片言の英語と中国語と
片手間のアトムと必死に母親を探していた。
その行為に胸を打たれた中野も、
彼らと一緒に母親を探した。
なぜか知りうる限りのハリウッドスターを
擬音や状況に例えて。
BGMには森優子の切ないバラード。
その光景は面白くもあり切なくもある。
と、その時一人の甘いマスクの男が声を上げた。
「皆、船内に戻れ!」
身長185センチ、運動神経抜群のきん肉マン、
いや、渡辺マンである。
知識豊富な賢い彼は気づいたのである。
なぜこの国がこれほどまで
無残にも滅んでしまったのか…。
まさか、アメリカ人の紋所、
核兵器が自らの国を滅ぼす事になろうとは…。
哀れなものである。
結局我々は二度と繁栄する事はないであろう、
かつての超大国を後にした。
無残にも朽ち果てた自由の女神と、
ウンチ王の母親に別れを告げて…。
その光景を、自由の女神を馬鹿にして見つめる斉藤。
森優子が渡辺マンにしがみついた。
瓜生がすねた。
2015年08月14日
火星人
今日は朝から大戦争だ。
なんと火星人が、我が「桜吹雪三号」に攻撃を仕掛けてきたのだ。
ハリウッド並みの死闘を繰り広げる我々であったが、
この旅始まって以来の劣勢に立たされた。
今やウンチ王になってしまったフランス語も話す近藤は、
アトムとの呼吸が合わず合体を試みるも不発、
船内に潜入してきた火星人と、
グレコローマンスタイルで戦う甘く白い謎のマスクマン、
身長一八五センチ、メタボリック、裸眼0・01、
挙句に1・5リットルのコーラを飲み干し、
ビッグサイズのポテチを平らげながらの渡辺マンは、
駄洒落と下ネタを連発するも、全く歯が立たない。
(そうかあの飛び散るコーラでマスクが甘いんだ(笑)。
だからお前は太るんだよ。)
女優気取りの(あんた演技がオーバーなんだよ)森優子は
空気も読まず場を荒らし、
瓜生にいたっては、船員の扱いにすねて、
若干裏切り行為に走る始末。
唯一、か弱い体で頑張る中野も、もはや限界だ。
ズドーン! ドカーン!
…この船にたった一つしか積み込んでいなかった大砲で
何とか我々は事なきを得た。
こんなことで果たして我々は
人類の再出発を果たすことが出来るのだろうか、不安である。
…斉藤、どうせならいっそのこと現れないでくれ。
2015年08月15日
奇病
今日もまた我々は、地球のとある大地に降り立つことができた。
残念ながら人類の生存を確認することは出来なかったが、
ここなら何とかやっていける、
皆がそう喜び合ったのもつかの間、
その星では不思議な奇病が流行していたのだ。
落ちてる物をすぐ拾い食いする斉藤はたちまち病魔に犯された。
顔面の神経が侵され、
すべての顔面神経が鼻と唇の間の溝に集中し始めたのだ。
斉藤の異変に気づいた船員たちが続々と彼の元へと駆け寄ると、
次々にその奇病に感染しはじめた。
…我々ももうおしまいか…。
そんな絶望感に浸っている我々の前に一匹のキツネが現れた…。
父さん、もしかしたらこの大地は、日本の北国だったのかもしれません。
2015年08月16日
童心
今日は船内でとんでもないものが発見された。
エロ本だ。
どんなにインターネットやDVDが発達しようとも、
中高生に絶大な人気を誇るエロ本、
我々中年のバイブル・エロ本、いやビニ本…。
誰が持ち込んだのかは分からないが
確かにエロ本が落ちてるではないか!
その存在に確実に気づいているインド育ちの近藤、
半立ちの渡辺、けちの瓜生。
一目でいい、読みたい、読みたい、読むだけでいい、
あの頃に戻りたい、こんなことでドキドキ出来るなんて、
宇宙はなんて素晴らしいんだ。
昔を思い出しているのだろう、
彼らはあの手この手でエロ本との接触を試みる。
白々しい。なんて白々しいんだ。
そしてなぜいつも後一歩のところで邪魔が入るんだ。
儚く切なくも続くエロ本との一騎打ち。
栄冠を手にするのは誰だ!
くしくも今日、祖国・日本では
甲子園の栄冠を目指す熱き若人たちの熱戦が続いているはずだった…。
2015年08月17日
朗読
珍しく静かな船内。
そうか宇宙にも日曜日が存在するんだ。
船員たちもそれを知ってか知らずか部屋にこもり、
つかの間の休日を楽しんでいるようだ。
ただ男たちが部屋から出てこないのにはもう一つ理由があった。
まさか昨日のエロ本が斉藤の手に渡るとは…。
失意のどん底に落ちた男たちは、
悔しさと物悲しさから部屋を出ることが出来ないのだろうか、
それとも一瞬で目に焼き付けた表表紙のあの子と、
いいことをしているのだろうか。
そんな男たちの残骸をよそに、
わざとらしく大きな声で感情たっぷりにエロ本を朗読する男がいるではないか…。
斉藤だ。
斉藤よ、お前は優しさで本を読んであげているのか、
それともただ、勝ち名乗りを上げているだけなのか…。
答えはどちらでもない。
彼は幼い頃からの声に出して本を読む癖が直らなかった、
ただそれだけだった。
2015年08月18日
謎の物体
夕方、ふと調理室を覗くと、
斉藤が何やら得体の知れない液体の入ったビンのふたを、
必死に、渾身の力を込め、鬼の形相で、血気盛んに、
たまに高倉健で、意味不明の行動と奇声をあげながら、
こじ開けようとしていた…。
開いた…。
「ジャムやないか!」
2015年08月19日
未知との遭遇
夕方、ふと機関室を覗くと、
斉藤が何やら得体の知れない物体と必死に、
渾身の力を込め、一人でぼけて一人で突っ込んで、
たまに志村けんで、
意味不明の行動と奇声をあげながらコンタクトをとろうとしていた…。
気づいた…。
「ぬいぐるみやないか!」
…ただ後々よく見ると、それは斉藤ではなく渡辺マンだった。
2015年08月20日
スーパーマリオブラザーズ
女性乗組員の中野と森は今日も仲良く談笑している。
実にいいことだ。
「中野っちはもし地球が消滅してなかったら何になりたかったの?」
「お姫様なのだ。」
さすが秋葉系の元アイドル、返事がナックル。
「どんな感じの?」
「ピーチ姫なのだ」
古っ、中野よ、お前、歳はいくつだ。
「な、なれるといいね」
「必ずやマリオが助けに来てくれるのだ」
おいおい、ありゃただの髭親父だぞ。
「スーパーマリオかあ、懐かしいね」
「マリオみたいにワープが出来たらいいのに」
お前の頭がワープしてるよ。
「トゥイントゥイントゥイン、ワープ!」
…中野よ、そんなお前を恐らくマリオは助けてくれないぞ。
「頑張ってね」
中野がピーチ姫だとすると、さしあたってマリオは斉藤か。
嫌なゲームだ。
2015年08月21日
日曜日
今日は宇宙に飛び立って何度目の日曜日だろうか。
そもそも、もはや我々に曜日の感覚はほとんど残っていなかった。
さすがに船員たちも疲弊しきっている。
地球に戻りたい、日本に帰りたい。
誰も口にすることはないが、皆そう思っているはずだ。
船内にも、日を追うごとに重苦しい空気が張り詰める…。
押し寄せる不安、絶望、憂鬱、
まるで地球にいた頃の日曜日の夕方そのものだ。
こんな時、いつも我々日本人に、日曜日と言う宴の終焉を知らせ、
明日への活力を与え、
生きることの素晴らしさを教えてくれるものがあった…。
そう「サザエさん」だ。
2015年08月22日
プレゼント
ハッピーバースデイ。
今日は森優子の四十回目の誕生日である。
(中野と同じねずみ年)
疲弊しきっている船内に咲く、一輪のバラ。
相当疲れきった船員たちも、
久しぶりの明るいニュースに若干心が癒されているようだ。
我々は、ささやかながら彼女をもてなした(中野が作ったケーキを囲んで)。
特に男たちは、彼女に気に入られようと必死にかき集めた、
ありったけのプレゼントを差し出した。
将来(あるのか)歌手を目指す(おいおい)森優子の歌声に合わせて。
ただ彼女は、マイクを持つと人が変わったように暴力的になる。
そう、それはまさしく棘の生えたバラのように(笑)。
何が気に入らないのか、暴走止まらぬ森優子。
悲鳴止まらぬ男たち。
爆笑止まらぬ中野文。
宴はまさに酒池肉林。
森優子の独壇場。
狂喜乱舞する宴は続き、今日もまた夜が更けていった。
(宇宙はずっと夜なんですけど)(笑)
2015年08月23日
禁断の恋
こういった物理的、精神的、肉体的閉塞感が二ヶ月も続けば、
誰だって欲望を抑えきれなくなる。
まして性欲的な問題ともなればことは重大である。
ただ、こればっかりはキャプテンの私にもどうすることも出来ない。
私は見てしまった、二人の禁断の恋を…。
結論から言おう。
渡辺マンが斉藤に恋をした。
そして斉藤はその愛を受け入れた。
ただ、勘違いして欲しくない、
別に彼らは頭がおかしくなったわけでも、
生理学的に追い込まれ、突然変異を起こしたわけでもない。
純粋に愛し合っていたのだ。
絡み合い重なり合う二人、響きあう声、ほとばしる汗。
二人はお互いの愛を確かめ合うように、性感帯を弄りあった…。
調理室で、こともあろうに調理器具で。
「斉藤さん好きだ、好きだ」
「渡辺マン、渡辺マン」
この際どちらが男役でどちらが女役かなんてどうでもいい、
そんなことはこの広い宇宙から見れば、
本当に些細なことだ。
二人の営みを邪魔しないようにそっとその場を離れた。
私は改めて人間の素晴らしさに触れた気がした。
2015年08月24日
禁断の恋 その2
斉藤と渡辺マンは別れた。
どうもお互いの価値観が合わなかったようだ。
彼らはもう二度と愛し合わないことを誓った。
何やら船員たちが窓の外を見て騒いでいる。
何事かと窓の外に目をやると、そこには大胆にも、
この広い宇宙で愛し合っている男たちがいるではないか。
瓜生と近藤だ。
それはもう、愛し合ってるなんてものではない、大胆である。
大胆すぎるのである。
人類初だ、人類初の宇宙セックスだ。
宇宙だからものすごい声を出してるぞ。
宇宙だから、ちんちんも出してるぞ。
宇宙だから見たこともない技を繰り出してるぞ。
念のために私はもう一度確認した。
間違いない、宇宙で無邪気にセックスを営んでるのは瓜生と近藤だ。
あれはまさしく瓜生と近藤のスペースセックスだ!
私は改めて人間の素晴らしさに触れた気がした。
2015年08月25日
機動戦士渡辺マンダム
まさか、まさか現実に、
我々の目の前でこんなことが起きるとは…。
少年の頃、ハラハラドキドキしながら
テレビにかじりついたアニメ「機動戦士ガンダム」。
大人になるにしたがって、忘れていったあの興奮が、
今まさに現実のものとなって
我々の目の前で巻き起こっているではないか!
でかい、でかい。
スケールがでかい。
これぐらいの事が起こって、
まさしく宇宙日記と呼べるのではないだろうか。
そんな光景に誰よりも一際熱い眼差しを送る男、渡辺マン。
そこに駄洒落や下ネタを操る彼の姿はなかった。
少年の頃思い描いた、大好きだった世界が、今、
現実となり彼の眼下に広がっている。
なれる、なれる、俺は、ガンダムになれる!
彼は抑えきれない興奮と衝動に駆り立てられ、
一目散にコクピットに乗り込んだ、
そう、密かに彼が開発した「機動戦士渡辺マンダム」の。
燃え上がれ~、燃え上がれ~、燃え上がれ~、
マンダム~、
機動戦士~、渡辺、マンダム~、マンダム。
「アムロー、行きまーす!」。
そんな一言を叫び彼は暗い宇宙へと飛び立った。
そして宇宙の星屑となった。
さらば渡辺マン。
2015年08月26日
銀河鉄道999の車窓から
中野文は地球にいた頃、旅をするのが大好きだったらしい。
日本中、いや世界中を旅して回る事が彼女の夢だった。
(まさか宇宙で世界を旅する羽目になるとは(笑))
子供の頃、宇宙ステーションはもっとたくさんあると思っていた、
そんな彼女に、今日ささやかながら宇宙からの御褒美があった。
なんと銀河鉄道999が、我々の船に急接近してきたのだ。
(おいおいささやかってもんじゃないだろ)
我々の存在に気づいた星野鉄郎が手を振っている。
メーテルが微笑んでいる。
車掌が切符を拝見している。
私は手に持っていた一枚の切符を、そっと中野に手渡した。
桜吹雪三号発、アンドロメダ星雲エターナル行き。
船員たちは快く彼女を世界の旅へと送り出そうとしている。
BGMは森優子のゴダイゴのミッキー吉野の部分(そこ歌じゃねえよ)。
「さあ中野よ、思いっきり世界を、いや宇宙を旅するがいい。
そしていつかまたどこかの星で巡り合おう。
その時お前は星の王女様だ(笑)。さようなら中野文」
2015年08月27日
エイリアン
今日は久々に船内に明るいニュースが舞い込んだ。
二日前、宇宙の暗闇へと飛び立った渡辺マンが、
げっそり痩せて帰ってきた。
そして中野っちも、メーテルと折があわず、
あいつをぶん殴って帰ってきた。
また7人で旅が出来る。
そんな喜びで船内には活気が戻った。
なんとしても生き延びよう、必ずや地球の大地に降り立とう。
そして我々の手で人類再出発の歴史の一ページを飾ろう。
再びそう誓い合った我々だが一つだけ気がかりな事がある。
この船に我々以外の何者かが…、
「いるような気がする。そしてエイリアンとなり、
次々に我々に襲い掛かってくるのではないだろうか…。
私の予感は的中した。…この船に、エイリアンはいる。」
2015年08月29日
桜吹雪三号、桜舞い散る惨状
正直、今日はこれを書く気にはなれない。
昨晩から続くエイリアンとの格闘で、
私は愛すべき船員たちを次々に死なせてしまったのだ。
船長失格である。
人よりちょっとだけうるさい渡辺マン、
ちょっとだけ気の強い中野文、
ちょっとだけかわいい森優子、
ちょっとだけ信頼のある近藤君、
ちょっとだけぼけてる斉藤さん…。
斉藤さん。
溶明。
男4がいる。
男4 書き直しちゃだめでしょう、瓜生さん。約束は守らないと。
男1 大体こんなもんやで、斉藤さん以外はね。
ピストルを構えあう二人。
男1 やりよったなあ、おっさん。
男4 ばば引いたのは近藤君か、瓜生君。
男1 ええ、近藤君には悪いことしたなあ、人殺しの中に掘り込んだんやからな、あいつは人が良すぎた。小林君も。
男4 いつ気づいた?
男1 別に斉藤さんがやったなんて、全然気づいてなかったよ。ただ俺は、だーれも信用してなかった。
男4 ゆがんでるなあ、ゆがんでる。
男1 よう言うわ。どうします? 二人で仲良く、ぷかぷか浮いときますか?
男4 誰も信用せん人間とは一緒におれん。
男1 ゆがんでるなあ。
男4 お前よりは前向きにゆがんでる。
男1 人殺してまで生きる前向きさは、俺にはないねえ。
男4 遅かれ早かれこうなる。無駄なものは片っ端からどんどん省いていかんとね。
男1 森本さんもやりよったな。
男4 あのおっさんは気づいてた。とうの昔にな。
男1 あんた出身どこや?
男4 今からどこにでもなれる。
男1 名前は?
男4 なんにでもなれる。
男1 一人で生きて何が楽しいねん。
男4 死んだやつが歴史を作り、生きてるやつが歴史を語る。
男1 なんじゃそれ。
男4 桶狭間で信長は勝った。本能寺で死んだ。関が原は家康。壇ノ浦は平家。妹子は男。卑弥呼は女!
男1 見たんかおっさん。
男4 教科書に乗っとったわい。
男1 じゃあ、次死ぬのはお前や、おっさん。
男4 生き残ってもの言え。なんぼでも書き直したるわ、馬鹿たれが!
男1 最初がゆがむと後の人間が困るわ。
男4 キリストかマホメッドか釈迦に言うて来い!
男1 お前何になりたいねん!
男4 ネアンデルタール人もしゃべっとったわ!
男1 猿が物言うか!
銃声。
男1、倒れる。
徐々に溶暗。
男1 えーっ…、小林君…。
男4 ご苦労さん、瓜生君。君は今日から斉藤さんだ。
男5 斉藤さん、いや、森本さん、これまた捨ててきますね。
男4 もうその必要はないよ、小林君。
男5 えっ。
銃声。暗転。
男5、倒れる。
男4 惜しかったなあ、小林君。君みたいに教科書に出てこん人間が、歴史を動かしてるかもね。…聖徳太子も坂本竜馬もこうでないと。
銃声。
男4 えっ。
溶明。
音楽。
全員出てくる。歌に合わせて合唱。
男3 遥か彼方 目指す大地 俺はさすらう
女1 希望抱き 未来、夢見 私は祈る
男2 闇の中で 掴む光 一滴愛を込めて
男4 幾多の街 無数の傷 無限の星 神々よ
女2 桜吹雪 あなた待つ 校舎の裏で
男1 おりゃおりゃおりゃおりゃドカーン、もう一つおまけにドカーン
全員 ドカーン
男3女2 いざ行かん 手を取り合って 旅立つ我等
男1女1 涙拭いて 顔を上げて さらば地球よ
男2・4 命かけて 挑む仲間 情熱の勇者が今
マントを羽織い、拳銃片手に男6登場。
男6 ソレガ俺ダ 俺ガソレダ ソレハソレダ 俺ハ俺
全員 さだめ背負い 拳掲げ 銀河の海へ
男6 ルゼラ・デ・ミーマ ラウル・スバーマ セデム・ナピュメク
全員 さあ 旅立とう
歌、終わる。
全員 (男6に)誰?
暗転。
幕。