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次の12色を全て使って、恋愛(官能)小説を書いて下さい。(上級)

「赤色、青色、黄色、緑色、黒色、白色、

紫色、茶色、金色、銀色、桃色、灰色」

  信号がからに変わる。しかしなかなか思うように歩けない。昨日降った雪で、周りは一面の世界だ。早く駅に着かなければみどりの窓口が閉まってしまう。とにかく田舎はなんでも閉まるのが早いのだ。子は一生懸命足を前に進めた。
  曜日の夜、桃子は仏壇に手を合わせていた。一ヶ月前、祖母が亡くなった。朝はいつものように家族皆でごはんを食べ、少し気分が悪いと言って横になり、お昼すぎまで起きてこないので母が様子を見に行くと、お布団の中で眠るように亡くなっていたそうだ。
  あまりにも突然の出来事に、桃子は実感が沸かなかった。髪をうすにほんのり染めた、おしゃれで上品な祖母。おちゃめなところもあって、「おばあちゃんはになったら、泉の国で、ずっと好きだった人に会いたいわ。」なんて時々、ほんとに時々言っていた。その時はまさか現実に祖母がいなくなるなんで思っていなかったから、桃子は「ふーん、それっておじいちゃんじゃないのかな。」とふと思う程度だった。
  喪儀も終わり、あっという間に一ヶ月が過ぎようとしていた金曜日の夜、桃子は仏壇に手を合わせた後、何気なく、本当に何気なく、仏壇の引き出しを開けてみた。するとそこには一枚の封筒が入っていた。普段の桃子なら見逃すところなのだが、何故かその日は違っていた。封筒が「開けて」と言っているように思えたのだ。
  隣のの間にいる父と母に気づかれないように、引き出しをそおっと閉めると、桃子は封筒をポケットにしのばせて二階の自室に戻った。
  恐る恐る中を確かめると、古い白の写真と便箋が出てきた。白黒写真は学生服を着た若い男の人で、便箋には祖母の字で、その男の人の名前(と思われる)と住所が書いてあった。
  桃子は俄然興味が湧いて、ねだり続けて、最近やっと買ってもらったばかりのスマートフォンにその住所を打ち込んでみた。すると―そこは霊園の住所だった。
  桃子は一瞬驚いたが、白黒写真の男の人の顔を見つめ続けるうちに、ああそういうことか、と腑に落ちるとはこういうことか、と身をもって体験した。
  ―この人はきっとおばあちゃんの大好きだった人で、そしてこの人はもう亡くなっていて、おばあちゃんはお墓参りに行きたかったけど行けなくて、だから灰になってから黄泉の国で会いたいって言ってたんだ―
  この祖母の思いは桃子をつき動かした。多感な十五歳の桃子もまた恋に憧れていたのだ。
  かくして桃子は今、みどりの窓口に向かって突き進んでいる。東京行きの切符を買うために。おばあちゃんの大好きだった人のお墓に、おばあちゃんの想いを伝えるために。おばあちゃんの恋を伝えるために。

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