第22回公演『洋一の牙』
ポスト・パフォーマンス・トーク(4/4)
黒川猛(THE GO AND MO’S)×岩崎正裕(劇団●太陽族)
2016年4月16日(土)終演後、津・あけぼの座
黒川ワールドの原点とは
岩崎 僕はあの夜、「黒川くんはなんでそんななの」って聞いたことが、今頭をよぎっているんだけど。何故こんな作風になったのかって。自分でどう理解してるのかって。
黒川 え?
岩崎 例えば、宣伝のために新聞社とか回って、自分の作品のことを説明するとか、ないでしょ。
黒川 ないですね。
岩崎 でしょ。自分から自分のことをセルフアプローチ的に人に喋るということが極めて少ないんじゃないかな。
黒川 こういうトークがまずもう、僕初めてぐらいで。やらないですね。
岩崎 もし、この作品が海外でリーディングされて、
黒川 あれ、リーディングします?
岩崎 いや、したとしてよ、それでなんか、「黒川さんのこの作風はどうやって生み出されたんですか?」って言われたとしようよ。なんて答えるの。
黒川 いやー、答えようがないですね。<その時面白かったことを作品にしてる>という感じですね。何かの考えがあってというのはないです。あれを言いたかった、これを言いたかった、と言うのはないです。<あの場面が面白いだろうな>から逆算することはあります。
岩崎 やっぱりそうか。あの晩、あなたと横山くんと、中華料理を食べに行ったでしょ。
黒川 覚えてないです。
岩崎 あの時に、テレビでとある容疑者が捕まったていうのをやってたんだよ。「おお」って言ってたら、横で中華料理食ってたおっさんが、「死刑や、あいつは死刑や」って言ったんですよ。そしたらそれをあなたがめっちゃ面白がって。「大阪では一般人が死刑に出来るんや!」ってものすごい笑ってた。
黒川 不謹慎ですね。
岩崎 その時に、なんでそのすごいスピードで、そんなに書き上げられて、次々とアイデアが湧いてくるの、って質問を僕はしたんですよ。なんて答えたか覚えてないでしょ。
黒川 覚えてないです。
岩崎 それはこの人の履歴に一つポイントが有るんです。ちょっと高校の時の話をしてくださいよ。
黒川 ああ。中学と高校は、僕全寮制にいたんですよ。バックボーンが強烈なのは、そこなのかな。男子校の、中高一貫の寮で、親が「お前は素行が悪いから」って入れられて。そこはもう、ほぼ監獄です。テレビもねえ、まさしくなんにもないところ。男ばっかりで。
岩崎 漫画も読まないんでしょ。
黒川 漫画なんてもう、密輸。
岩崎 でしょ。
黒川 こそっと、窓の下から紐で吊り上げて。それこそ漫画からエッチなのから全部。エロ本写してたことありますよ。ないんですから。中高で<ない>ってでかいですよ。親もいない。なんにもない。で、寮監がいて。ほんま刑務所みたいなところで。
岩崎 2000年の『セルフィッシュボンド』の時に、お母さんが観に来てくれる、ってすごい嬉しそうにしてたもん。だって、中高の時にお母さんから切り離されてるわけですよ。
黒川 会ってない。だから未だに他人行儀ですよ。うちの母親、今僕のことをなんて呼んでると思います。
岩崎 なんて呼んでるの。
黒川 クロちゃん。
岩崎 なんでやねん。名字。
黒川 お前もだろ。どうなってんねん。「クロちゃん明日から三重よねえ」「うん」ってことになってます。
岩崎 13~17歳ぐらいまで、なんにも与えられていないわけ。今はもうとにかく情報の渦の中に子どもたちは育ってるわけでしょ。うちの子どもに「そんなにゲーム好きならゲーム作れよ」っていうんだけど、「いや、そんなつもり全然ない」とかいう。
黒川 将棋作ってましたよ。ダンボールで。で、<金>とか<銀>とかだけでは面白くないから、新しい漢字が出てくるんですよね。<中>とか。<夢>とか。面白いですよ、<金>とか<銀>とかだけじゃない将棋。もう言ったもん勝ちですからね。<夢>はここまでいける、って。何が面白いんや、って思いますけど、それを分かった上でみんなでやるっていう。最初は普通の将棋ですよ。<歩>がばーって並んでて。だんだん発展していくと、もうほんと、無茶苦茶。無茶苦茶になります。トランプも、13枚とかじゃないですよ。すごいですよ。80いくつあるすごいトランプ。やることないですからね。テレビもねえし。
岩崎 だからあなたは、中学高校のままずっとTHE GO AND MO’Sをやってるんだっていうのが俺の結論なんですよ。
黒川 その通りです。
岩崎 だって、娑婆に戻ってきたのに、
黒川 娑婆って。
岩崎 飽き足りないわけですよ。娑婆で作られたこの情報、文化よりも、トランプ80枚のほうが面白いわけ。<夢>でここまでいける、って言うのが面白いんだよね。
黒川 そんなことやってましたね。
岩崎 だから、世間とやっぱりずれていくと思うんですよ。
黒川 ずれてたんですよ。
岩崎 そうでしょ。
黒川 ずれてたんですけど、だいぶ寄ってはいってますけどね。
岩崎 いや、わかるわかる。
黒川 だいぶ寄った作品がちらほら出て来始めてると思いますけどね。あの『超歩』とかになってくると、僕ももうわかりませんけどね。
岩崎 ああ、そうだね。
黒川 あれは僕が題名だけ言って、あいつが自分で撮ってるだけですから(※9)。で、見せられて勝手に解説してるだけで。
岩崎 でも、あそこの丸井さんと黒川さんのトークがよかったね。あそこで、<あ、これ深夜放送だ>、って思ったの。
黒川 あれ実は深夜に録ってます。
岩崎 やっぱりそう。
黒川 昨日の夜。1時半頃、ここ(舞台上)で録ってました。
岩崎 丸井さんなんか、某劇場の事務なんかやっててさ。休みとってここ来てさ、あんな『超歩』とかやってるっていうのがいい息抜きなんだと思うんだけど。なんかそういう二人の友情関係が続いててさ。やっぱりずっと寮の中にいるんだよ、あなたは、っていう気がするんだよ。
黒川 きついですね。
岩崎 そんなことない。いいと思うんだよ、それで。
黒川 で、実はその寮は、大分にございまして。
岩崎 あちゃちゃ。
黒川 ちょっと地震でですね(※10)。今、本番前に、80枚でトランプやったやつとか、<夢>って書いた将棋やったやつとか、「大丈夫か」「大丈夫か」と十何人送りましたら、すべて「大丈夫だ」と。
岩崎 良かったなあ。
黒川 「お前はどこで何をしてるんだ」、と返ってきまして。「三重でふざけてる」って。「それでいい」、という返事が返ってきまして。
岩崎 それはいいね。
黒川 皆さん元気だったんでね。
岩崎 何よりいいじゃないのそれは。あなたがふざけてるからみんなも元気にしのげるかもしれんもんね。…それ、いい締めでいいんじゃないの。
黒川 そうですね。きれいにまとまったと思います。本日はどうもありがとうございました。
※9 『超歩』…映像シリーズの『五輪』の一つ『超歩』。これまで様々な戦いに挑戦してきた“チャンピオン”なる男が、<超歩>なる競技(?)に挑む様子(映像)に、黒川と丸井がコメントをつけるというもの。第23回公演では『五輪』の『陸上競技編』『室内競技編』が披露される。“チャンピオン”について詳しくは、「チャンピオンの部屋」を御覧下さい。
※10 地震…2016年4月14日21時26分以降に熊本県と大分県で相次いで発生している、熊本地震。