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Producer's Colum 01

今回選択した戯曲は、奇しくも1996年、1997年に上演された戯曲です。

今から18年ほど前の戯曲ですが、今でも印象に残っている戯曲たちでした。すべて、劇場で観劇しました。

 

『そこにあるということ』(作/鈴江俊郎)は、1996年2月初演。

Kyoto演劇フェスティバルで上演され、その年の優秀賞となった作品。土田英生さんの「MONO」で活躍していた、水沼健さんと増田記子さん、同志社大学の第三劇場を出てフリーで活動していた松本エリハさんを客演に迎え、劇団八時半の大屋さよさん、松本葉子さん、中村美保さんの6人が出演。私は当時大学3回生でしたが、後々まで残る衝撃的な作品との出会いとなりました。

以来、鈴江俊郎さんと劇団八時半の作品は出来る限り観に通った覚えがあります。岸田戯曲賞を受賞した『髪をかけあげる』、OMS戯曲賞大賞を受賞した『ともだちが来た』、京都府立文化芸術会館プロデュース、土田英生さんの演出で上演された『家を出た』、京都ビエンナーレ2003で上演され文化庁芸術祭大賞を受賞した『宇宙の旅、セミが鳴いて』など、人間のどうしようもない寂しさと、孤独と、それでも生きていこうとする私たちの生を描く「鈴江節」の作品に始めて出会ったのがこの『そこにあるということ』でした。

 

『ソソラシド』(作/花田明子)も、1996年4月初演。

「BLUE FARM」というプロデュース公演のために書き下ろされた作品です。作・演出の花田さんが代表を務めていた「これっきり!?企画」(後の「三角フラスコ」)から段塚崇子さん、「MONO」の増田記子さんと西野千雅子さん、フリーの辻美奈子さんと松本エリハさんの女性5名が出演(増田記子さんと松本エリハさんは『そこにあるということ』に続いて出演!)。「肩ひじはらずに、気負わずに、自分と素直に向き合いたい…そんな私達の物語です。」というチラシのコピーにある通り、最初は何気ない女子5人の会話だったのが、だんだんと裏の気持ちが見えてきて、実は……! というお話でした。

花田明子さんは当時京都で注目を集めていた女性の劇作家・演出家。この作品の次に発表された『鈴虫の声、宵のホタル』でOMS戯曲賞の佳作を受賞しています。言いたいのに言えない、プライドとか見栄とか嫉妬とかそういう女性のココロの中の渦がグルングルン回りだして、ついには爆発…したり、しなかったり。等身大の私たちのリアルな心の内側を丁寧に描く作風が印象に残っています。この『ソソラシド』は、花田さんの劇団の作品ではないけれど、非常に「花田さんらしい」作品の一つです。

 

『ローランドゴリラとビーバー』(作/土田英生)は、翌年1997年1月初演。

作・演出の土田さんは「MONO」という劇団で大ブレイク中。この直前には、後年再演・映画化もされた『約三十の嘘』を、この後には「MONO」初期の傑作戯曲『―初恋』を発表します。そんな土田さんが、当時劇団員だった西山智樹さんと、現在も活躍中の尾方宣久さんのために書いた戯曲が『ローランドゴリラとビーバー』。「MONO」の特別企画第1弾として上演されました。

「60分、珠玉の会話劇」というチラシのコピーに違わぬ、笑いと緊張の絶妙のバランスで、あっという間の60分だったと記憶しています。書いているうちに3人芝居になってしまってご自身が出演した、というおまけ付きでしたが、二人の掛け合いの妙、笑い、ドキリとする瞬間…。照明の変化も場面転換もなく、一度の暗転すらなく、まさに会話だけで描く二人の関係性の変化に驚かされました。

 

どの作品も「いつかどこかで上演しよう」と目論んでいた戯曲です。

今回、3作品同時に上演することとなりました。リーディングという形ではありますが、むしろ戯曲をじっくりと味わってもらえると考えています。

もちろん、15年以上前に上演された戯曲に挑戦する若手の演出家たちの手腕にも期待しています。同じように上演したのでは、ただの焼き直しです。<現代>に上演する意味、彼ら独自の解釈によって、古さを感じさせないこの3作品が、新たな生命を吹き込まれて、皆さんの前で上演されるはずです。どのように生まれ変わるのか、どうぞご期待ください。

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