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Producer's Colum 03

今回、リーディング公演という方法を選択したのにはいくつか理由がある。

 

最も大きな理由は、欲張りにも3つの作品を同時に紹介したいと思ったからで、舞台美術/照明/音響などをできるだけシンプルにしなければならなかった。そのため、制限を設けることになるのであれば、上演方法自体を<リーディング>とした方が中途半端にならずに済むのではないか、と思ったことが一つ。

 

もう一つは「脚本を紹介する」ことがしたかったからだ。

 

今回上演する作品は、どれもいわゆる「会話劇」で「物語」のはっきりある作品です。ポスト・ドラマ演劇が登場してきて久しいが、特に京都の演劇シーンは2000年代以降、演出家に注目が集まり、いわゆる「前衛的」な作品が評価されている。もちろんご存じの方もいらっしゃいますが、私自身も京都芸術センターの演劇事業「演劇計画」、その後の「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」に関わり、その流れを作った一人です。そして今でも、演劇が「物語」しか伝えられないのだとすれば、映像や小説に到底敵わないと思っている。それがたとえライブであり、生の身体によって目の前で演じられるとしても。演劇は「物語の表象」ではないとは思っています。

しかし、演出的な「手法」ばかりが評価される流れにも違和感を感じていることも確か。新しいこと、というのは時代が経つ毎に減っていく。「これも演劇」「こういう方法も演劇だ」と新しい表現を開拓することは大事なことだが、それだけが評価されるのもどうもおかしい。なくてはならないとは思わないけれど、「物語」は演劇を構成する重要な要素の一つだとは思うのだ。

今回の3作品は、どれも優れた「物語」となっている。と同時に、普遍性・社会性をもった戯曲で、「物語」だけを伝えたいわけではない。

 

M_Produceでは「書きおろし・新作」を上演したことがない。日本の特に小劇場では「新作」がもてはやされるため、多くの劇作家が毎年数本の「新作」を執筆して、上演している。しかし、どんな優秀な作家でも、年に数本の傑作を生み出すことは稀で、一生かけて数本書けるか否かだと思う。こんなことを書くと怒られそうだけど、そういう意味で劇作家の新作に期待していない。プロデュース公演で新作を依頼して、それが生涯の傑作となる確率は、限りなく低い。ならば、すでに傑作あるいは秀作と評価されている作品を扱いたい。

京都に限らず、また若手から中堅まで、「作・演出」を兼ねるアーティストが多く、そのほとんどが毎年「新作」を執筆して演出している。特に旗揚げ公演だ、という若い人たちが、無理やり戯曲を執筆して演出しているのを見ると、どうして既成の戯曲をやらないのだろう、と思う。自分たちのやりたいことは演出によっていくらでもできるし、探せばそれに近いことが書かれている戯曲は必ずある。世の中には、先人たちによる優れた戯曲が数多く残されていて、自ら書くよりよほど面白い作品になるはずなのに。

そういう意味で、15年以上前に京都で上演された今回の3作品は、それをリアルタイムで見ることが出来なかった若い人たちに是非紹介したいと思ったし、当時を知る人たちにも、若い演出家たちによって新たな視点が与えられ、見え方の変わった上演を楽しんで貰えるのではないかと思った。

 

さて、リーディング公演を企画するにあたって、「リーディング公演とはなんぞや」は考えざるを得なかった。しかし今回の企画は、演出家が3人いて、それぞれに戯曲を解釈するため、統一したルールを作ってそれに当てはめることは避けたかった。そのため、2つの共通認識だけを持ち、後は自由に創ってもらった。

 

・戯曲は基本的には変えない(時代設定に関することや細かな変更は有り)

・「台詞を読む」ことを中心に演出を考える

 

前者は、戯曲を「原作」としてしまわないこと、戯曲そのものを紹介するという目的を失わないために。後者は、リーディング公演と銘打っているにもかかわらず、普通の公演と変わらない動きや照明や音響をつけるのではなく、俳優が台詞を読んで戯曲を伝えることをシンプルにやってみて欲しい、という意図だった。自由に、とはいえこの2つはある意味演出家の自由を奪うのに必要充分な条件だったかもしれない。

しかし今回、3人の演出家は私の意図を組んで、かつ自分が演出家として戯曲をどう紹介できるのかに真正面から取り組んでくれた。そして見事に、それぞれの演出家が自分のカラーを出してくれているように思う。どのぐらい動いていいのか。台本は持つべきなのか。ト書きは読むのか…。統一したルールは設けていない。それぞれの演出家が、この戯曲を私が紹介するとすればこうだ、という方法を模索してくれた結果が、今回上演される。

お楽しみに。

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